アカデミック・ビュー Vol.02

《他者想像と自己想像》

 

視点取得は、自分の視点ではなく他者の視点で物事を見ることですが、その行為形態は2種類あります。それらは「他者想像(imagine-other)」と「自己想像(imagine-self)」です[1]。この2つは、似ているようで、かなり違うので、注意が必要です。では、どのように異なるのでしょうか。

他者想像は、他者の視点そのものを想像する行為です。他者が何を見て、何を考えるのかを想像することです。他者は自分とは価値観が違うでしょうから、自分とは異なった見方をするでしょうし、異なったことを考えるでしょう。例えば、あなたがある部署に所属していて、従事している事業に関して、上司の視点取得をするとします。他者想像では、上司が今の事業環境をどう見ているか、そしてどんな対応を考えているかを想像します。あなたは、これまでの上司の言動を見てきているので、それを参考にして想像するでしょう。居酒屋で「部長は現場がよく見えてないんだよなあ。また、作業員の能力が問題だって言うんじゃないかな」なんて愚痴るのは、他者想像の一例です。

一方、自己想像は、自分と他者を置き換えて想像する行為です。他者の状況に自分を置いてみたときに、自分には何が見えるか、何を考えるかを想像することです。上の例で言えば、上司の立場に自分が立った場合、自分には今の事業環境がどう見えるか、そしてどんな対応を考えるかを想像します。自分と上司とは違う価値観を持っていますので、おそらく、異なった対応をするでしょう。「俺が部長だったら、管理者側を問題視するよ。管理手法の改善から始めるけどなあ」と言うとすれば、自己想像しているわけです。

トビラボの教育プログラムは、他者想像も自己想像も可能にしますが、主に難易度の高い他者想像に焦点を当てています。

[1] Stotland, E. (1969), “Exploratory investigations of empathy,” Advances in experimental social psychology, Vol.4, pp.271-314.